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新幹線は「無法地帯」なのか? 多国籍トラブル急増の現実、不正占拠・特大荷物と性善説の壁――解決策はあるのか



 新幹線の指定席を購入しても座れない──そんな体験談がSNSで拡散され、利用マナーや制度運用をめぐる議論が広がっている。



新幹線マナーの限界点

筆者が主に利用するのは東海道・山陽新幹線だ。車掌による車内アナウンスに耳を傾ければ、今どんな問題が起きているかは概ね察しがつく。  近年、車内トラブルの“3大課題”とされるのは、 ・特大荷物スペースの無断使用 ・指定席の不正占拠 ・貴重品の盗難 である。混雑時には、空いている席に荷物を置く乗客や、勝手に席を移動する例も多い。インバウンドの増加にともない、トラブルも多国籍化している。文化の違いという説明もあるが、 「郷に入れば郷に従え」 は公共交通の基本である。日本の新幹線を使う以上、そのルールに従う必要がある。  実際、グリーン車・テレワーク車両・一般車両の違いがわからない、特大荷物スペースが予約制と知らない、大声で飲食をする──そうした行為は日常的に見られる。  外国人旅行者の受け入れを重視する政策は、国家戦略として推進されてきた。その是非が問われる段階に入りつつある。何より、新幹線が前提としてきた秩序モデルが崩れつつあることは否定できない。  東海道新幹線だけでも、年間利用者数は1億人を超える巨大輸送システムだ。文化やマナーのギャップは、もはや一部の問題ではない。だが、誰がそれを是正し、秩序を保つのか。その責任の所在が曖昧なままであることが、根本的な課題となっている。


車掌減員と治安維持問題



新幹線治安設計の綻び

新幹線の現行制度には、構造的な限界がいくつも存在する。  まず、人員配置の最適化には制度的・経済的な壁がある。定時運行を最優先とする編成ダイヤの下で、人件費や労務管理の観点から現場への増員は困難だ。とくにJRの車掌は正規雇用が前提であり、一定の給与水準を維持する必要がある。「のぞみ」での車掌減員も、コスト負担と人手不足が背景にあるのは明らかで、現場では慢性的なリソース不足が常態化している。  さらに、制度上の対応権限がきわめて希薄であることも見逃せない。車掌も警備員も、乗客に対して注意や要請はできるが、強制力や拘束力を持たない。万が一、指示に従わない乗客がいたとしても、それを是正する手段が実質的に存在しない。  制度設計そのものが過去の前提に依存している点も深刻だ。現在も日本人利用者を中心とした「性善説」的な思想を前提に運用されており、治安維持やトラブル抑止を制度的に担保する枠組みが極めて脆弱である。価値観の前提自体が、現場対応力の限界を生み出しているともいえる。  例えば、東海道・山陽・九州・西九州新幹線では、予約制の「特大荷物スペース」が導入された。一定の抑止効果はあったが、無断使用や制度への誤解は依然として後を絶たない。ポスターやウェブサイト、多言語対応の案内が強化されているとはいえ、車掌による頻繁な注意放送を聞けば、利用者への制度周知やルール遵守が進んでいるとはいいがたい。  座席トラブルへの対応も限定的で、他の空席や予備席への案内で済まされているのが現状だ。正規の利用者が被る不利益を、制度的に補償できているとは到底いえない。


新幹線現場力の再構築


制度を再構築するには、現場対応力を高めるふたつのアプローチがカギとなる。  まず、車掌と警備員の連携強化を前提としたタッグ体制の制度化が急務だ。現行では、委託された警備員と車掌の役割が分離しており、現場での即応力が弱い。対応基準と連携プロトコルを共通化し、トラブル発生時の初動対応を明確にする必要がある。一定の判断権や誘導・移動に関する権限を、車掌と警備員の双方に付与すべきだろう。車掌・パーサー・警備員の連携を可視化し、治安維持における抑止力として制度に組み込む。スタッフの連携体制を広報し、ブランド価値として伝える姿勢も問われている。  次に、車内トラブルへの即時通報・記録システムの導入が求められる。車内カメラやAIによる自動通報、乗客のスマートフォンからの通報機能などを活用し、トラブル検知から対応までの時間を圧縮する仕組みが必要だ。これはDX時代に即した対応であり、思い切った投資で全JRにおける標準化を図る好機でもある。映像記録やリアルタイム通報の仕組みを前提にすることで、対応の正当性や、後追い検証の信頼性も飛躍的に高まる。さらに、トラブル事例をビッグデータとして蓄積すれば、AIを活用した予兆検知や事故予測も実現可能になる。  欧州の高速鉄道では、複数のセキュリティ要員が常時乗車しており、対応マニュアルに基づいた行動と、一定の拘束権限を持つ体制が確立されている。米国のアムトラックでは、アテンダントが即時に警察と連携できる仕組みを運用している。一方で、日本の新幹線は、乗客の自律に依存した「自己責任型モデル」が前提であり、制度設計と運用が諸外国と乖離している。  インバウンドの増加、高齢者・障がい者の利用拡大といったモビリティニーズの変化に対応するには、日本も欧米のような治安維持システムを視野に入れるべき時期に来ている。便数の増加、乗客の多様化が進む一方で、日本の鉄道サービスデザインは追いついていない。車掌やパーサーに教育と責任を集中させる運用体制も、限界に達していることは明白だ。必要なのは、少人数でも秩序を維持できる制度設計であり、その一歩として、上述のふたつのアプローチは有効な選択肢となりうる。


車内治安の制度再構築

公共交通における信頼とは、単に目的地に速く着くことだけでは成立しない。 ・安心して座れること ・トラブルが起きたときに正当な扱いを受けられること こうした当たり前の要素が制度として担保されてはじめて、移動の自由が守られる社会になる。  日本の新幹線は、人手不足やコスト制約、乗客の多国籍化といった新たな現実に直面している。しかし、限られた人員で最大限の安全と秩序を実現する設計は十分に可能だ。すでに、車掌と警備員の役割分担を見直し、制度として治安維持機能を再設計するフェーズに入っていると見るべきだろう。  もちろん、人件費の増大やDX導入にともなうコストを懸念する声もある。あるいは、 「日本は性善説を前提とした制度で十分」 という見方を持つ読者もいるかもしれない。だが現実には、車内トラブルは確実に発生しており、その頻度や深刻さに不安を覚える日本人乗客も増えているのだ。本稿を出発点として、多くの人にこの問題を自分ごととして捉えてほしい。

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